2025/04/18 17:09

「すこやかなぬいぐるみ」は、手作りのぬいぐるみです。
この度、すこやかなぬいぐるみが絵本になりました!物語と絵とともにお楽しみください。

一話読み切りの物語なので、このお話からでもお読みいただけます。

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ある日の朝、女の人は仕事に向かうカバンの中に「すこやかなぬいぐるみ」をちょこんと忍ばせて一緒に連れて行ってみることにしました。

職場に到着すると、女の人は周りに誰もいないことをよく確認してから、カバンのチャックを少しだけ開けておきました。
大変な仕事中も、くまのぬいぐるみと目を合わせられることがとても幸せに感じられました。

「おはようございます!」
背後から突然声がして、ドキッと心臓が跳ねました。
「わっ!」

女の人は慌ててカバンを引き寄せ、ぬいぐるみをかばうように抱き寄せました。
「驚かせちゃったみたいで、すみません」

驚いた様子を見せた女の人を見て、同僚は申し訳なさそうに言いました。

ぬいぐるみを持ってきたことで同僚に気を使わせてしまったことに、女の人も申し訳ない気持ちになりました。


その日の午後、女の人は前の日の仕事のことで怒られてしまいました。
女の人は、怒られた後いつも涙を抑えることができず、トイレにこもって泣いてしまいます。
心を落ち着かせるため、個室の中で呼吸を整えようと思っても、涙は自然にポロポロと落ちてきてしまうのです。

その日も、怒られた後、女の人はいつもの癖ですぐにトイレに向かいました。
いつもなら個室のカギをかけた途端に涙が溢れてしまいます。
しかし、今日はなんだか、いつもより平気な気持ちがしました。

カバンを覗くと、そこにはくまがいました。
女の人はカバンの中のすこやかなぬいぐるみと目を合わせ、
小さな声で「ありがとう」とつぶやきました。

ただそこにいてくれるだけで、女の人の気持ちはすぐに立ち直りました。

失敗しても自分を責めすぎないでいられる。味方がいてくれるように感じる。


帰りの電車で改めてそんなことを考えていると、胸にチクっとしたことがよぎりました。

「私、ぬいぐるみを隠してばかりいる」

大事な存在なのに、恥ずかしい気持ちから存在を隠して、こそこそとしていた自分がなんだか情けなく感じました。

もう一度、カバンの中のくまと目を合わせて、今度は「ごめんね」とつぶやきました。
カバンの中でほほ笑んでいるように見えるくまは、まるで「気にしないで」と言ってくれているように感じられました。


そうか。ぬいぐるみと一緒にいることは、弱いことじゃない。

ぬいぐるみといることはむしろ、少しだけ強くなろうと、すこやかになろうとすることなんだ。

そう気が付いた時、女の人にはカバンの中が一瞬だけ「ぴかっと」光ったように感じられました。

それから女の人は、毎日すこやかなぬいぐるみをカバンに入れて仕事に行くようになりました。堂々とはまだできないけれど、一緒にいることで少しだけ強くなれる。女の人は、前よりちょっぴり誇らしげに日々を過ごせるようになりました。

第2話 おわり
これからも絵本はつづきます

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第1話はこちらhttps://caroneko.base.shop/blog/2025/04/15/141327